マインドタイム

マインド・タイム 脳と意識の時間

マインド・タイム 脳と意識の時間

訳者があの方ですし,「オリジナルな仕事をする時間を確保するため翻訳はしない」というポリシーを曲げてまで訳した本ですから,そりゃあおもしろいだろうなと思って読みました.

わたしとしてはLibet=準備電位というくらいの認識だったので大変興味深く読みました.意識が生じるまでの遅延時間(なんと500 ms),そしておなじみ準備電位というふたつの現象を核にわれわれの意識とは何かについてかなり詳細に持論を展開します.わたしたちは500 msたってからじゃないと現実を認識できないとか(遅延時間),自由意志で行動する意図をもつよりも前に脳は動き始める(準備電位)なんてはなしを聞いて,自分の意識とは何か,自己とは何か,自由意志は存在するのかなんて疑問が山のようにわいてくる.そして,Libetはそれにゴリゴリの実証的科学者の立場で答えていくわけです.ものすげー力強い本です.

意識は内政報告でしか調べることはできないという強い主張にかなり迫力を感じました.基礎的な問題に正面から,しかも,オリジナルな方法とアイデアを持って取り組んでいることにものすごい感銘を受けました.頑張らないといけないよなあ思わせる本です.

個人的には,自分の研究の原点を思い出す一節などもあり,非常に印象深い読書となりました.

しかしね,これは実に読むのが疲れる本だ.自説を展開するにあたり,かなり丁寧に実験結果や他の研究者の批判を紹介し,そのあと自説が正しいかを論証するというプロセスが非常に多い.論文ならともかく,一冊の本を使ってそこまでやるとちょっときついわ.