Wrong about Japan

Wrong About Japan (Vintage International)

Wrong About Japan (Vintage International)

Peter Carey は現代のオーストラリア人としては最も成功している作家だと思います.昔,友達に彼の代表作であるTrue History of the Kelly Gangをもらって読みました.オーストラリア人が読書好きの日本人にあげるにはもってこいの作者だし作品でした.オーストラリア人として最も成功した作家が書く,オーストラリアの歴史上最大のヒーローの話ですから.ただし,残念ながらネッド・ケリーのはなしは正直わたしには余りピンと来なかった.

さて,本題.この本はCareyがアニメ好きな12歳のオタク息子と日本を訪れた旅行記です.標題の通り,すっかり間違っているCareyの日本滞在記になっています.

アニメやマンガにただならぬ興味を持つ内向的な12歳の息子.息子に喜んでもらうためにCareyは息子との日本行きを計画.アニメマンガといった日本のポップカルチャーに関する本を書くための取材旅行ということにして,息子も連れて行ってしまおうとしたのです.取材旅行の計画の過程で,Carey自身も息子や息子がもってくるマンガやアニメを通して日本に対するイメージが広がってくる.もはや妄想に近いぐらいに広がってしまう.

そして,いざ息子に旅行の計画をうち明けると息子はそれほど喜ばない.まずそれが最初の間違い.そして,出発し日本に着き出来るだけ日本らしいものを経験しようとする.その結果,日本旅館で不自由な思いをし,歌舞伎を見て退屈し,日本の朝ご飯に食欲をなくす.本当にもう間違いばかり.

さらに,本来の旅行の目的である漫画家やアニメ作家へのインタビューでふくらみきった自分の妄想をぶつけるが,ことごとく空振りに終わる.これが最大の間違い.Carey自身は日本のアニメのあらゆる作品に第2次大戦の影響を見たと考えたのだけど,それを伝えたところで日本のアニメ作家たちはキョトンとするばかり.ガンダムの監督,富野由悠季に至っては「ガンダムバンダイがおもちゃを売るために作った作品だ」とまで言い出す始末.Carey完全にかたなしです.

まー,Careyは作家ですから,彼の妄想的な想像力というのはそれ自体すばらしいのですがレポーターとしてはそれが全く仇となっている.しかし,その妄想と現実のギャップを書くことが,それに打ちひしがれる自分を書くことが現実の異文化体験の空気をリアルに伝えてくれる.しかも,そこはかとなくおかしい.少しもの哀しいのだけれど,やはりおかしい.

一方で彼の作家としてのイマジネーションがすばらしい力のある文章として結実している部分もあります.彼の戦争に対する思いが真摯に出ている空襲体験者へのインタビューは圧巻.とても迫力があります.小説家としての力量発揮といったところでしょうか.

これを読んでいる途中,Sophia Coppolaのロスト・イン・トランスレーション [DVD]を思い出しました.どちらも現代の日本をきちんと描いているという面で評価できるという点が共通点に思えます.この映画自体のできについてはわたし自身はたいして良いとは思わなかったんだけどオーストラリア人とアメリカ人はすげー言い作品だと言ってなあ.

なお,この作品は最後が小説的でとても良い.とても良い読後感を与えてくれます.それだけでも充分読む価値があると思います.それくらいいい感じでした.

以下の本や映画はご参考まで.

True History of the Kelly Gang

ロスト・イン・トランスレーション [DVD]