The Brooklyn Follies

The Brooklyn Follies

The Brooklyn Follies

Paul Austerの新作.保険会社を退職し,妻に離婚された59歳の男,Nathan Glassが主人公.この男,最初は実にさえない.彼はやることもない,死ぬのを待つだけのキャラクターとして登場する.元妻には憎まれ,娘には愛想を尽かされ,友達のひとりすらいない.メシはいつもレストラン,もちろんひとりで食べる.やることは散歩と読書とテレビを見ることくらい.ホントにさえない,つまらない年寄りの退職男だ.

ところがAusterお得意のさまざまな偶然の出来事を経るにつれ,ものすごく渋くてかっこいい男になってくる.年輪を経たdeterminedな感じっていうですかね.この年取ったdeterminedなヒーローに本の中盤からは釘付けです.友人を騙し死に至らしめた男との対決,浮気に悩む娘を元気づけるセリフ,カルトな夫と結婚した姪の救出,困惑するパートナーに対する助言などなど,ともかくすげーかっこいい.

この作品は退職男が主人公の冒険小説であると同時に,現代社会への深い洞察も含む作品でもあります.9.11周辺,そしてそれ以降のアメリカに対する警戒感,右傾化した社会に対する不安,その一方で市井の人々への愛情もひしひしと感じられます.直接的ではないのですが,Austerのアメリカに対する愛情,憧憬がじわじわ伝わってきます.

Auster特有の幻想的な部分は少ないんですが,二転三転するストーリーにはかなり読ませる力があります.あと,いつもながら最後がいい.今回は次のストーリーへの広がりをもった終わり方ですが,いつもどおり凛とした,ポジティブな読後感を与えてくれます.読んだあと胸を張りたくなる感じですね.ひとによっては最後のパラグラフのせいでそうはなれないかもしれないですが.