心理学への異議
心理学への異議―誰による、誰のための研究か (心理学エレメンタルズ)
- 作者: フィリップバニアード,Philip Banyard,鈴木聡志
- 出版社/メーカー: 新曜社
- 発売日: 2005/05/01
- メディア: 単行本
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概論的な話をするためのネタ本として読みました.
心理学と戦争やプロパガンダとの関連,広告にはたす心理学の役割,心理学におけるバイアスあるいは心理研究に潜んでいる偏見など,重要でかつ多くの人にとって取っつきやすいテーマについて述べられている.しかもすごく読みやすいし,分かりやすい.ポップな話題で興味を引きつけ,重要なテーマについてじっくり考える機会を与えてくれる.授業のネタふりにはとても参考になります.
筆者はだいぶリベラルな立場にあるようなので,その辺を多少さっ引いて読む必要があるけれど,イギリス的なユーモアがいろいろ入っているためか,イデオロギー的なぎすぎすしたところは強すぎない(もっとも弱くはない).冗談については英語でそのまま読んだほうがおもしろかったかもしれないなと思った.日本語にするとどうしても無理があるし,オチを解説してしまうようなとこがある.ま,しょうがないんだけど.
以下,参考になったところをメモ.
- Millerの講演.心理学を民衆のためのものにすること.行動の理解と統制を目的にしたWatsonとのコントラストはうまい.
- イギリスでは第一次大戦で適齢期男性の1/4が死亡した(日本における特攻のような,戦術的利点からは理解しがたい作戦はイギリスでもあった).
- 洗脳.中国におけるバンサン医師の事例.これはすごいけど授業で取り上げるのは難しいかも知れない.
- 平均とは何か?平均的な胃と個人の胃の形状比較はおもしろい.写真とかならもっといいのに.
- 暗黙の人種差別.隠れた人種差別を告発する論文ですら著者自身が気付かない人種差別を内包する.
- 心理測定法の重要性.測定法を心理学者たちがきちんと理解していたらシリル・バートのねつ造論文がいつまでも尊重されることはなかった.
- 性格テスト.キャッテルの性格理論よりアイゼンクほうが多くの研究を生み出した.これは前者に16因子があったのに後者は2因子であったせいだろう,という筆者の主張.