視覚世界の謎に迫る

視覚世界の謎に迫る―脳と視覚の実験心理学 (ブルーバックス)

視覚世界の謎に迫る―脳と視覚の実験心理学 (ブルーバックス)

たいへん分かりやすくて,おもしろい視覚心理学の入門書です.おもしろい入門書というとどうしても翻訳物が多かったのですが,最近は少しずつ変わって来つつあります.

この本のおもしろさがなぜ生まれるのか?それは誰もが興味を持てるようなおもしろい実験を(おそらくは慎重に)選び,それらを無駄を省き簡潔に説明しているからだと思います.事実で語り倒す.おもしろい実験心理学の本を作る王道をきちんと守っていると思います.著者自身が現役の研究者であることもあり,むかしの話から新しい話までいろいろ幅広く登場するところもまたよしです.

知覚の実験心理学を知りたい人にはもってこいの本だと思います.こんなふうに読みやすくて,おもしろくて,しかも安い本ってなかなかないですよ.

以下,メモ.

  • 杉田らの実験.単一波長のもとで成育したサルは色の多様なバリエーションを知覚できない.単一波長を1分ごとに赤,緑,青と変化させ,すべての錐体を活性させても同様である.
  • 視運動性眼振の解剖学的ルート.水平方向の運動対象について,中心周辺の動きは皮質へ,周辺中心の動きは皮質下へ投射される.生後3ヶ月以下では後者のみ有効.
  • 両眼融合は頑健だが,両眼立体視は壊れやすい.斜視の事例より.
  • 乳児は左右対称図形を好まない(偏好視実験では)
  • 人間の顔は1000人分くらい記憶に留めておくことが出来る.顔の記憶は時間の経過や表面的にな形状の変化にも極めて頑健.25年後のクラスメートの顔すら識別できるくらいである.
  • 人種効果(異人種効果?)の説明とValetineの顔空間モデル.吉川らの実験は人種によって顔認識において重視する部位が違うことを示唆.例えば,英国人は髪,目の色,日本人は目が二重かどうかを重視する.
  • 特殊な環境により表情の認識が変化する.養育放棄を受けた子は悲しみの表情を,虐待を受けた子は怒りの表情を認知しがちというバイアスがある.