Interpreter of Maladies

Interpreter of Maladies

Interpreter of Maladies

インド系の女性作家Jhumpa Lahiriのピュリッツァー賞受賞の短編集.彼女自身やその周辺や出来事に基づいたインド系移民が経験する文化的な摩擦,価値観のギャップを背景にしつつも,結婚生活や貧困,職業などさまざまな日常的な延長線上にある出来事について普遍的なメッセージを投げかけてくる作品集です.

どれも物語がすごく良くできています.わずか20ページ足らずの中に驚くほど大きな展開が繰り広げられることもあります.しかも,展開としてはでかいのに設定としては,決して不自然ではありません.小説内の出来事としてはありふれたものとすらいえるかもしれません.例えば,浮気とか妊娠とかそういうもんですね.しかし,そのありふれた出来事が息をのむような展開を生み出します.これは語り手の技のなせる技でしょう.

彼女自身が経験したであろうインド系移民としての視点は,当たり前ですが物語にエキゾチックな要素を与えています.私たちのしらない世界が確かにそこには書かれている.しかし,表面的な違いは大きいものの,内在するものには確かな普遍性があることが読んでみるとひしひしと伝わってきます.例えば,形態はどうあれ結婚や子育てに伴う喜びや悲しみには確固たる普遍性があるわけです.むしろ,表面における違いの大きさがあるからこそ,内在する普遍性に強く気づかされるのかもしれません.インドからやってきて,アメリカへの適応に苦しむ姿はインド人特有のものに見えるかもしれません.しかし,その苦しみには誰にでもに共通した何かがあるのです.

9つの作品がありますが,視覚的な美しさと展開のすばらしさ,そして彼女だけが醸し出すことができるエキゾシズムがふんだんに盛り込まれているタイトル作品のInterpreter of Maladiesは大変読ませます.もちろん他の作品もすばらしい.

個人的にじわーんと感動したのはThe third and final continent です.ものすごく淡々とはじまって,じわじわ,盛り上がってきて最後に一気に持っていく感じがありました.話の筋としてはインドからアメリカで働きはじめた男性の独白のようなものなんですが,市井の人間の基本的な喜びみたいのが凝縮されているようにわたしには感じられました.

あと,Jhumpa Lahiriはかなり美人なのね(ぐぐりました).インド的にはよくわからないのですが,ヨーロッパベースというかそういう美的な価値観ではかなりのもんです.来年公開される彼女の長編The Namesakeを映画化したものには出演もするそうです.

少し残念なのは今のところ2つしか著書がないこと.もっと読みたいなと思わせてくれます.ものすごく,ものすごくいい本.