How to be good

How to be Good (Penguin Street Art)

How to be Good (Penguin Street Art)

30代を書かせたら右に出るものがいないNick Hornby.若くもない,だからといって年を取りすぎてもいない世代の微妙な不全感をうまく書いています.この話では良いこと,正しいことに急に目覚めた夫に振り回される妻を主人公にして微妙な不全感をユーモアたっぷりに,ただし,一方ですごくシリアスに書いています.

基本的にはものすごくくだらないことがいろいろ書いてあります.40才前後の女性の独白というかたちで話が進むので,その女性の独り言として絶妙にリアリティがあり,しかも,くだらなくて笑ってしまうことがたくさん出てきます.例えば,「単純な人」を説明するとき,クスリで溶けた歯のように脳の溶けた人と車を運転するようになってもTolkein やVon Danikenを読む人を並べたりします.後者は毒が効いています.そこがおもしろい.イギリス的なんですかね.

このようなくだらないおもしろさだけで個人的には評価できるんですが,主題そのものは結構重いです.良くあること,正しくあることとはどういうことかをかなり考えさせられます.ストーリーの軸になるのは,良いこと,正しいことに急に目覚めた夫です.シニカルで人付き合いも悪く毒舌だった夫はある日を境によい人になります.家にあるコンピュータを貧しい難民に寄付し,ホームレスにお金を恵み,ストリートチルドレンを自宅に泊め,近所の人にもそれを薦めます.それによって家庭はギクシャクします.妻は,夫の行為は正しいことだけれど自分はやりたくありません.そこで止めようとしますが,止める理由がない.論理的にも道徳的にも夫が正しいわけです.そこでモラルジレンマに陥ります.この過程を追っていく中で,良いとは何かをいろいろ考えることになります.

わりと最後はあっけないんですが,わたしも結構考えさせられました.