みなさんどのくらい頑張っているのかしら?隣の心理学者の生産性

休みで何となくネジがゆるんでいると,最近おれは怠けてるよなあとつくづく思います。でも,そんなとき昔の同級生の顔を思い浮かべると,あいつよりは結構頑張ってるよなあ,とも思います。でも,べつの同級生やバリバリやっているひとの顔を思い浮かべるとやはり怠けてるよなーとなるわけです。

まあ,仕事がうまく行ってたらこんなことは考えないんですけどね。最近,きちっと解釈できるデータが出てこないので,データが取れないこの時期は多少悶々としてしまうのでした。

そんなとき知りたくなるのは,はたして俺は本当に怠けているのか,頑張っているのか,どちらかということです。ここは心理学者らしくやはりデータから見てみるのがいいでしょう。そんなときに参考になったのがこの論文です。

Brynes, J. (2007). Publishing trends of psychology faculty during their pretenure years. Psychological Science, 18, 283-286.

アメリカでは大学に就職しても,はじめはたいていいわゆる任期付きです。テニュア(永久在職権)を手に入れるまで,若手は必死に頑張ると言います。アメリカではtenure pushということばや,tenure cliffということばがあります。tenure pushとはテニュアが取れるまでとにかくシャカリキに仕事すること,tenure cliffはテニュアが取れた後,崖から落ちたみたいになんにも研究をしなくなることです。まあ,そんくらいプレッシャーが強いんでしょうね。

ちなみにアメリカでは年に1-2本,査読付きの雑誌論文を書いていれば,数年後にはテニュアが取れるという迷信めいたお話があるそうです。今回の論文はこれをデータをとって確かめてみようという目的でした。

この論文ではアメリカの大学ランキングでトップ30にはいる名門大学(1)の教員を対象に博士号取得後7年間の発表論文数を調べました。アメリカのトップ30って言ったら,たとえるなら野球のメジャーリーグですね。数もだいたい同じくらいです。さて,心理学でのメジャーの選手たちはだいたいどれくらいのもんなんでしょうか?

今回の調査対象は名門大学における286名の教員でした(2)。そして,PsychoINFO, Science Citation Index, ERICといった日本でもおなじみのデータベースが査読付きの発表論文数を調べるために用いられました。

さて,結果です。286名全員の平均論文数は一年あたり1.58本でした。年度がますごとに論文数が増えていったそうです。なお,1970年代に学位をとったひとも1990年代に学位を取った人も平均論文数は大して変わらなかったそうです。最近,論文執筆へのプレッシャーが厳しくなっているという話もあったのですが,20年関わらないんだったら現実は少々違うのかもしれません(3)。

また,出版された論文のうち22%が単著論文,44%が第一著者論文,34%が第2,第3,,,第n著者論文だったそうです。まだ自分のラボが出来上がってない時期であることがよく分かります。学位を取ったばかりで,まずは一人でシャカリキになっているのかなという感じ。

さらに論文の質を見るために,論文数に対して雑誌のインパクトファクターで重み付けがなされました。論文数にインパクトファクターをかけるという単純なものです。例えば,インパクトファクター1.5のMemory and Cognition に3本論文があったら, 3 X 1.5 = 4.5という感じです。

このインパクトファクターで重みづけられた係数の平均値は11.75でした。これを論文数で割ると3.06となります。平均して,インパクトファクター3.06の雑誌に皆さん論文を出しているってことですね。

さて,だいたいこれがデータのあらましです。大まかに見ると上に出てきた迷信はそれほど間違っていないということになります。ただし,これが平均であることを考えると年間1本より少ないひともかなり大勢いることも指摘しておかなくてはなりません。まあね,若いうちはとりあえず1,2本くらいは書いておきましょうよってのが,データとともに示される指針になるかなといったところでしょうか?

この数値を見てどのようにお感じになるでしょうか?すごいと思うひともいれば思いのほか少ないと思うひともいるかもしれません。とりあえず私は自分と比べてみました。平均執筆数はほぼ平均値でした。第一著者論文の比率も同じくらい。でもねー,平均インパクトファクターがちょっと低い。もっともっと頑張れねばなりません。質を高めることが今後の目標

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(1)Harvard, UCLA. Michigan, Columbia などなど
(2)認知,社会,発達領域の教員のみが対象になりました。これまでの知見から,臨床系の教員の論文数は非臨床系より少なくなることが分かっているため,外したそうです。掲載雑誌の読者層を考えたのかもしれません。
(3)日本は全然違いますよー。若い人でポジションを取るひとはとにかくたくさん書いてます。昔は論文1,2本で就職できたらしいですが,今では夢物語です。でも,北のほうはまだそんな感じなんだよなー。不思議だ。