人種差別

 オーストラリアは人種差別の少ない国です.政策として多文化主義(multiculturism)を掲げており,人種差別のない国を目指しています(参照,オーストラリア移民・多文化・原住民局の多文化主義のページ)

 メルボルンは移民の街として知られ,実に様々な人種が暮らしています.良く聞く話では,メルボルンにはアテネテッサロニキについでギリシャ生まれが多いというものがあります.街を歩いていても実に様々な国の言葉を耳にします.

 政策として多文化主義を表明し,平等主義が広く浸透しているオーストラリアでも,人種的な差別が全くないわけではありません.例えば1990年代後半には,One Nation党というかつての白豪主義(White Austraria policy)を思わせる「伝統への回帰」を主張する政党が議会勢力として躍進をはたすという事件もありました.この例からも明らかなようにこれまでオーストラリアを支えていたイギリス系文化と全く異質のアジア文化流入することにこころ穏やかでないひともいるようです.表面上は多文化主義に逆らうことはないかもしれませんが,内心快く思っていない人の数は実際多いのかも知れません.日本人は典型的なアジア人ですから,伝統への回帰をよしとする人々にとってこころよい存在ではないでしょう.われわれは,一般に自分の所属する集団を高く,それ以外を低く評価する心性があります.このような心性を持っている以上,差別は簡単にはなくならないでしょう.

 それでも,幸いなことに,わたしが生活した範囲で,目に見えて露骨な差別を受けたことはありません.メルボルンシドニーと並び,アジア系移民が多いところなので,比較的アジア人に対して寛容なのではないかと考えています.また,わたしが大学に職をもっていることとも関わるでしょう.大学には比較的,政治的に正しいことをよしとするヒトが多いです.

 「メルボルンが比較的アジア人に寛容である」という感想を支持するいくつかの資料があります.まずはオーストラリア警察多文化局の1995-1996年における調査で,州ごとに犯罪件数全体における人種差別関わる暴力犯罪(racist violence)の割合を比較したものです.そこではQueensland州で人種差別に関わる暴力犯罪の割合が全国平均より多く,Tasmania州で少ないという結果を報告しています(詳細な数値は不明Survey of Police Ethnic Issues (PDF 92kB)).これは二つの州以外であるビクトリア州メルボルンにおける人種差別に関わる犯罪が,決して多くないことを示唆しています.

 メルボルンのあるヴィクトリア州は,シドニーのあるニューサウスウェールズ州と並び,国外を出生地とする人口が多いところです.また特にこの2州は,英国,アイルランドニュージーランドなど英国的な基礎を持つ国以外からの移民,特にアジア系の移民が,他の州に比べて多くなっています(参考資料,2001年度のオーストラリアの人口調査1996年度の調査を日本語でまとめたもの

 これらの結果は,「メルボルンは移民の数が多いにもかかわらず,人種差別に関わる犯罪が少ない」ことを示していると考えられます.また,アジア系が多いことは,アジア人である日本人にとって比較的住みやすい人種環境を提供するのではないかと考えます. 

今日のお仕事

  • 注意PSE実験1分析(統計分析とグラフづくり)
  • 注意PSE実験2*1
  • DPの論文ざっと読む.あまり関係なし.