論文は誰が書くか?:論文の書き方(4)

わたしはこれまで論文を書く際,基本的には自分で書いてきました.「基本的」というのは,最初の頃は自分の文章が跡形もなく消え去ってしまうほど直されたからです.それでも,その修正を受け入れてわたしが自分でなおしましたから,自分で書いてきたといっても良いと思います.

わたしが自分で書いてきた最大の理由は,自分の研究がチームとして行うものでなく,ひとりでアイデアを立て,実行し,解釈ができるものだったからだと思います.また,お金もたいしてかからないものばかりでした.もちろん,研究遂行の過程で,アイデアや方法について議論をすることもあります.それでも研究遂行の決定権はすべてわたしに与えられていました.

そういう環境でやってきたわたしからすると,論文はすべて「ラボリーダーが書く」というトラックバック先(大学院生の学位論文への道)のスタイルはちょっとびっくりしました.ただし,これはリーダーが論文やアイデアを盗んでいるのではなく,アイデアそのものがリーダーのものあるいは,ラボ全体のものであり,完全な分業制のもと統括者であるリーダーが執筆を引き受けるシステムであると理解しました.生物学系など単独で研究をすることなどが実質不可能なケースではこのようなほうが多いのかもしれません.実際,Nature, Scienceにだすのが当たり前のラボだとリーダーの目線の高さが不可欠です.Natureとかを出しまくるところを見ているとそういう気がします.

まあこれはどっちがいいというはなしではなくて,いろいろあるなあというはなしなのでしょう.わたしのように基本的にひとりで進めるスタイルと完全なチームとして研究するスタイルの2つだけではなく,その中間にいくつものバリエーションがあると思います.それぞれの長所と短所をうまく組み合わせながら,研究分野,研究室独自のスタイルができあっていくのだと思います.

わたしのように自分で書くスタイルの利点は,研究全体をオーガナイズする力が付くことだと思います.欠点としては,研究のスケールがしばしば小さくなることです.チームでやる場合の利点は,研究のスケールが大きくなり,質も高まることだと思います.もちろんこれはリーダーの資質が高くなければなりません.欠点は,研究全体をオーガナイズするという経験を得られないことでしょうか.いわゆるソルジャーを養成するだけになりかねません.トラックバック先のように院生の体の具合を心配しなければならないような過酷な要求を出し続ける研究室ならソルジャーを養成するだけにはならないでしょうが,多くのところはそうでないと思います.

ただし,自分でやるにしろ,チームでやるにしろ,それぞれの欠点は,個人の資質に帰される部分が多いかもしれません.ひとりでやっていても目線が高く,質が高い研究を続ける人も大勢います.一方,チームで歯車的な役割を担っているだけでも,リーダーから研究に必要な技能を学び取っていく人もいるでしょう.それらができないひとは長い目で見れば消えていくのだと思います.

いろいろな方法があり,それぞれに利点も欠点もあります.利点を生かし欠点を意識しながら,研究を進め,質を高めていかないといけないなあと強引にまとめてしまいました.

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今日のお仕事

  • ちらつき実験調整終了
  • cf実験課題難易度調整中.わたしには簡単すぎるのだが,学部生にはどうだかわからん.
  • 翻訳を頼まれる.頼まれた仕事は断りません.締め切りも必ず守ります.