論文の書き方(5):日本語にしやすい英語
論文の書き方(1):書く順序のエントリーで,
バランスの良い骨組みができたら,そこにどんどん肉付けして いきます.この段階でもほぼ日本語でやります.詳しい表現は さておき,おおよそ箇条書きで書くことを,骨組みに付け加えま す
(中略)
この段階で英語表現が浮かんだら,横に付 記することもありますが,基本的には日本語のみです.ただ し,できるだけ英語に直しやすい日本語にします.細かく書い てみて,段落がつながらないようだったら,骨組みを変更しま す.なお,それに伴い全体のバランスがどう変わるか常に チェックをします.この段階で論文に書くべきことは全部書き 付けます.
と書きました.さらっと「できるだけ英語に直しやすい日本語にします.」と書いたのですが,いったいどのようなものが英語に直しやすいのかと考えるとけっこう難しい.この点についてはkakio さんからもTBをいただきました(http://d.hatena.ne.jp/kakio1004/20050423).
できるだけ文章構成がシンプル で、どの単語がどこに掛かっているのか一目瞭然な 日本語
というのがkakio さんのご意見です.もちろん異論はないのですがもう少し詳しく考えてみることにしました.
わたしとしては(1)単純な日本語で書く, (2)英文の構造を持たせる,の2点が英語に直しやすい日本語を書くことで大切かなと思います.以下にもうすこし詳しく書いてみます.
単純な日本語で書く
具体的には,- 短い文を使う
- 無機的に書く
- 接続詞はあまり使わない(使う場合その機能を明確にする)
の3つをわたしは意識します.
短い文については特に説明はいらないと思います.
無機的な文というのは無駄な装飾や詩的な表現を避けた文です.小学生の夏休みの作文くらい飾り気なく書きます.例えば「今日はプールに行った.泳いだ.」みたいな感じです.
また,下書きですので,文として書く必要は必ずしもありません.
接続詞をあまり使わないのは構造をシンプルにするためです.理想としては,文の流れだけで論旨が通るようにすべきだと思います.もちろん全く使わないのは不可能ですが,出来るだけ少なくします.逆接に次ぐ逆接,例えばHowever連発なんてのをたまに見ますがあれはかなりわかりにくい.
単純な日本語は日本語で文章を書くときにもある程度共通することだと思います.論文の場合,美文調で格式の高い文章にする必要はありませんから,単純で無機的でわたしは良いと思っています.
英文の構造を持たせる
一方,英文の構造を持たせることは日本語の文章を書くことと少しことなるでしょう.
具体的には,
- 英文のパラグラフ内構造
- 英文のセンテンス構造
を意識することだとわたしは考えています.パラグラフ間の構造は日本語でも英語でも大差はありません.
英文のパラグラフ内構造
翻訳のときも書きましたが,アカデミックな文章のパラグラフ内構造は
paragraph statement
↓
supporting evidence
↓
supporting evidence 2 ・・・・
↓
summary
という構造をとることが多くなります.特に序論,考察など日本人にとって書きにくいところでこの構造が出てきます.例えば,先行研究の紹介をするところ,結果の別解釈について議論するところなどはおおむねこの構造をとることが多いでしょう.例えば,
Aの理論にはいくつかの実証的証拠がある(paragraph statement).
↓
AとBはX法を使って***という結果を出した(supporting evidence).
↓
BはY法を使って@@@という結果を出した(supporting evidence).
↓
X法も,Y法もA理論で仮定するαを直接操作する手法であることを考えると上の実験結果は理論Aを直接支持するものである(summary).
なんて感じになります.この流れに沿って段落内の文章を配置するとわりと論文ぽくなると思います.なお,独自の理論を展開するところなどではもう少し複雑な構造をとることもあるでしょう.また,内容が自明な場合,summaryはないこともあります.
英文のセンテンス構造
英語では主語,動詞がとても大切です.それを意識する.日本語としてはおかしくとも英語として成立するような主語動詞を思いつくならそれを採択する方がよいかも知れません.また,日本語にはない無生物主語と動詞を組み合わせを用いたり,名詞から派生した動詞をわたしは意識して使うようにしています.
また,従属接続詞(時間,条件を表す接続詞,因果を表す接続詞など)を含む文章ではどちらを主節にするのか意識して書きます.この時点で決定しても良いかも知れません.また,その接続詞が節をどのようにしてつなぐものなのかを明確にします.必要な場合,接続詞は,副詞あるいは副詞句に変換した方がよいこともあります.
上と関連しますが,修飾部(形容詞節など)と被修飾部の関係をきちんと意識しておくのも重要です.また,修飾部は何かと複雑になりがちなので,訳が出来るような単純な用語を用いるように心がけると良いかもしれません.
さらに,結果の分詞構文など便利な構文は日本語の段階でそれを利用できるようにしておきます.
とまあ思いつくままにだらだら書いてしまいました.なんかまとまりが悪いですね.自分のなかでも消化し切れていない問題だと書いてみて気付きました.そんなわけでこのエントリーはこれからも随時変更したり,書き加えたりしたいと思います.
コメント,TB大歓迎でございます.