非対称性の起源
- 作者: クリス・マクマナス,大貫昌子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/10/21
- メディア: 新書
- 購入: 4人 クリック: 11回
- この商品を含むブログ (17件) を見る
いやね,この本が訳されるとは思いませんでした.しかも,講談社ブルーバックス.波及効果やおもしろさという点から考えると,科学の一般書としては最高ランクの評価じゃないすかね.
なんかの賞を取った効果なのかもしれません.このテーマで賞が与えられたことは個人的にはうれしい限り.
McManusは人間の左右差の専門家,利き手を中心にどんなものでも左右差ならデータを取ってしまうようなひとです.科学者としては博物学的側面が非常に強いひとです.まあ,実験心理って,統一理論みたいのはないので,まだまだそういう時代だと言うこともできるのかもしれません.
さて本書,McManusの博物学的側面がいい方に発揮されています.遺伝子から哲学,ひいては文学,芸術までの広範な知識をもとに,利き手の問題,人間の左右差の問題に洞察を加えます.この本について世間話をむかししたとき,ひとりの人間が一つのトピックについてこれほど多量で幅広い知識を持っていることに誰もが驚嘆していました.
そういう博物学的なすごさの一方で,理論的におもしろい部分は専門家という視点では多くない.実際のところ,利き手の問題について,理論的にそんなに新しい事を言っているわけではありません.ただ,ものすごく深まっているのと,だいぶ詳しくなって来ているところがすごい.この深みと詳しさに彼の博物学的力量が遺憾なく発揮されているのだとおもいます.
個人的におもしろかったのは,やはりさまざまな不思議な左右差.まだまだ知らないことがありますね.知っていることも,McManusの枠組みに取り入れられるとまた新たな輝きを出すことも新鮮でした.知り合いもいっぱい出てくるのも楽しみの一つ.
最近は利き手や左右差について,おもしろい本が立て続けに出た.どちらも良い出来で,大変よいことだ.でも,これを心理学の問題ととらえるひとは結構少ないかもしれない.こういう良書をきっかけに心理学に対する興味が広がるといいなあ.おれもがんばんないとなあ.