信頼性の統計学

信頼性の統計学―信頼区間および統計ガイドライン

信頼性の統計学―信頼区間および統計ガイドライン

帰無仮説検定は心理学研究のスタンダードツールですから,かじった人なら知らない人はいないはずです.今でも全国何万人という心理学を学ぶ大学生や大学院生が,ぶつぶつ言いながらも勉強をしているでしょう.

その帰無仮説検定ですが,生まれたときから批判にさらされてきました.FisherのNeymanとPearsonに対する批判には中傷に思えるくらいの激しい攻撃があったと言われています.

で,帰無仮説検定に対する批判はいまでもあるわけです.最近も帰無仮説検定への異議というか,よりよい研究手法を目指していこうという提言はなされ続けています.それらの批判の中で,ここ10年でほぼ定着した提言の一つに

帰無仮説検定より信頼区間を重視しよう.

というものがあります.これは検定における有意差あり・なしっていう二値的な見方ではなく,変数の連続的効果を母集団レベルできちんと見ていこう提言です.心理学において測定された現象に二値的にとらえるべきものはほとんどないですから,大変もっともな提言です.このような背景を受け,最近は論文化の際,検定結果の記述だけでなく信頼区間の記述も求められることが多くなっています.実際,信頼区間を記述した論文も10年前に比べたら飛躍的に増えています.

こんな感じで普及しつつある信頼区間という研究ツールですが,日本語の心理統計の本や,研究法の教科書では詳しく述べられていることがありません.特にパラメトリックな事態における信頼性区間の求め方が載っている教科書は見つけるのがとても大変です.

その大変さを一気に解消してくれるであろう強い見方がこの本です.信頼区間を使う意義から,種々の測定値や統計手法における信頼区間の求め方を非常にわかりやすく,例を交えて紹介しています.回帰,度数,ひいてはオッズ比や生存分析までクックブック的に網羅しているのは脱帽です.しかもわかりやすい.訳もシンプルでとても良いと思います.装丁がややショボイのが難点でしょうか.ま,それは本質的ではないですね.

信頼区間は求め方自体は多くの場合とても簡単です.だからこそ,こんなにたやすく多くの人に受け入れられ,研究ツールとしての重要性が認知されたのだと思います.簡単に理解できる重要なツール知らないのは,やはり損です.これから論文を執筆なさる方は是非参考になさってください.