コレステロールは頭にいい:過食への福音?



   記事はここで最初に見つけました.
   http://radio.weblogs.com/0117471/2005/03/21.html#a231


 コレステロールは脂肪ですし,それを多く含むを食品はカロリーが高い(たとえば,卵黄).ですから,ダイエット中の方には天敵です.実際,コレステロールは太っている人の体で多いものです.カロリーの高いものを食べてダイエットになるわけがありません.また,血中コレステロール値が高い人は心臓病や循環器系の疾患をかかることが多くなります.コレステロールは美容や健康の敵です(*0).

 しかし,最近の研究には,たとえ体に悪くともコレステロールは頭にいい
ことを示したものがあります(*1).論文はこれです.

Elias, P. K., Elias, M. F., D'Agostino, R. B., Sullivan, L. M., & Wolf, P. A. (2005). Serum cholesterol and cognitive performance in the Framingham Heart Study, Psychosomatic Medicine, 67(1), 24-30.

Eliasたちの調査

 Eliasたちは,2123人もの被験者を対象に,血中コレステロール値(Total serum cholesterol, 血清総コレステロール)と知的能力の関連を調べました.彼らは,28年にわたり,心臓疾患系の危険要因を調べるために,アルコール摂取量,BMI,血圧,血中コレステロールなどを縦断的に測定してきたそうです.このデータをもとに今回の調査が行われました.

 被験者は,血中コレステロール値によって3群にわけられました(*2):低レベル群(150 - 199 mg/dL),健常レベル群(200 - 240 mg/dL),高レベル群(240 - 380 mg/dL).

 それぞれの被験者はいくつかの課題を行いました.これらの課題は成人用知能検査から下位検査を抜き出したもので,大きく4つのカテゴリーに分かれました(*3).

 4つのカテゴリーを説明します.(1)学習と記憶,これはいわゆる記憶力にあたるもので,直後再生(言われた単語列をすぐに想い出す),視覚再構成(見せられた絵を想い出して書く),対連合学習(ふたつの単語をついにして覚える.その後ひとつを手がかりに想い出す)から測定されました.(2)注意・集中,これはいわゆる集中力に当たるもので,呈示された数字列の順序再生(順序通りに想い出す),およびその数字の逆順再生(逆の順序でに想い出す)の双方の得点から測定されました.(3)類似性,これは抽象的な推論や概念構成の課題から測定されました.(4)言語流暢性,これは語の想起(いくつ単語を思いつくか)などから測定されました.

 各群における成績を総得点(合計点)で比較したところ

血中コレステロール値が高いほど成績が良い

つまり,

コレステロールは頭にいい

という結果が得られました.各カテゴリーでは,注意・集中,言語流暢性,類似性で統計的に有意な差が見られました.

 血中コレステロール値を直接操作していないので,コレステロールと知的機能の因果関係はわかりません.また,被験者が高齢のため(60歳以上),他の年齢層にそのままこの結果が当てはまるかもわかりません.

 それでもこの結果はコレステロールが人間の知性になにか関わりを持っている可能性を示唆しています.人間の知性は脳に宿ると考えられています.脳を構成する物質で最も多いものは,水を除けば,実は脂肪なのです.実際,乳児の脳の発達にはある種の脂肪酸が不可欠ですし,アルツハイマーの症状が脂肪酸の投与によって改善したという報告もあります.これらの事実は,コレストロールという脂肪が,人間の知性に重要な役割を果たすことを支持するかもしれません.

 ダイエットのため,摂取する脂肪を極端に減らすと,体にかえって悪影響が出ることはよく知られています(*0).上の研究は,頭にも悪影響が出るかもしれないこと示唆しています.

 まあ,今回の結果は,お年寄りが対象なんで

元気な年寄りはよく食べる

ことを示しているだけかもしれません.調査研究にはこういう怖さがあります.そうだったら結構,とほほ,ですね.



(*0)コレステロールにもいろいろあって,体にとても重要な働きをするものもあります.詳しくはhttp://plaza.harmonix.ne.jp/~lifeplus/text/colest.htmlを.
(*1)少しミスリーディング.コレステロールと知的機能の因果関係は実証されていません.
(*2)論文中の表2を対象にしています.5群にわけた結果などは今回省略.
(*3)論文でもこの部分が不明瞭.ウェクスラー式の成人知能検査・記憶検査,および多言語失語症検査から抜粋したとなっている.