インドの人に学ぶ通じる発音,通じない発音

メルボルンではいろいろの国から来ている人が多いため,様々なお国なまりの英語が話されています.ばりばりの巻き舌のイタリア訛,同じく巻き舌でものすごく力強いインド訛,変なアクセントのドイツ訛,音高の差がある中国訛などなどです.

なかでもインドから来ている人の訛は平均的にかなり強いものがあります.小学生だとそれをまねしてからかってしまうくらいです.まあ,これ自体はいいことではないですが,それくらい特徴的な訛だと考えてください.

訛はあったとしても,インドでは共通語が英語だったり,高等教育はすべて英語で行われる(インドの人に聞きました)ため,英語に堪能な人が多いです.

また,わたし自身びっくりすることなのですが,インドの人は,訛は非常に強くても単語レベルでは必ず聞き取れる英語を話します.わからないことはまずないです.普通,訛が強かったらわからなくなりそうなんですが,全く違うんですね.比較しては悪いですが,中国からの人で訛りが強いとわたしはわからないことが多々あります.

なんでかなーと思って注意深く聞いているとふたつの特徴があります.ひとつめは,独特の訛はあっても,英語のphonemeというんですかね,音素がきちんと区別されて発音されています.例えば,「r」の発音は「ルルル」みたいな巻き舌でネイティブの発音とは全く違うんですが,「r」の発音をすべきところでは必ずこの音になります.音に違いはありますが,英語の音素の区別はきちんと捉えていて,ネイティブの発音と対応付けが可能な程度に留まっています.

日本人は英語の音素をきちんと区別して発音するという点で,かなり不利があると思います.英語には日本語よりも多くの音素があります.例えば,l, rの区別は日本語にはありません.母語にない音素の区別を身につけるのはなかなか大変なものです.発音にしろ,聞き取りにしろここで躓くことが多いのではないでしょうか.その点,インドの人はすごい.理由はなぜだかしりませんが.

もう一つはアクセントがしっかりしていることです.個々の単語でのストレス,文のなかでのストレス双方ともかなり明確におかれていて,はっきりとした強弱が付いています.むしろネイティブよりはっきりとしているのかもしれません.日本語の単語レベルには英語のストレスに対応する構造がないですから,このへんがきちんとできることもうらやましく思います.単語レベルで正しくストレスをおくことは,音節ベースで発音する日本人には苦手な部分です.

まあ,他にもあるのでしょうが,

  1. 個々の音素を区別する
  2. ストレスの位置を正確にする

といったことが,インドの人の英語が聞き取れる原因であり,それがまさに日本人の苦手とするところだと現時点では考えているわけです.

で,わたし自身の体験としては,とにかくストレスを気を付けて話せば,ほぼ通ずるということがわかりました.乱暴な言い方をするとストレス音の音素に気を付けて,しかも強調して発音すればあとはかなり適当でも通じます.ストレス音以外の母音は,発音記号でいうと「e」のひっくり返ったやつでも基本的にはオッケーな気がしています.まあ,文脈もありますしね.

まあ,これもインドの人の話しぶりを見たり聞いたりして,とりあえず行き着いた暫定的な結論です.ありがとう,KとSとJ<仲のよいインド人.

最後になりますが,音素およびストレスの問題,どちらも,外来語のカタカナ表記による弊害だと思っています.日本語にない音をとりあえず置き換えてしまうことで本来あるはずの音素の区別がなくなり,音節ベースのカナ表記にすることでストレス構造が消えてしまいます.カタカナ表記は日本語の枠内にこれまでにないものをたやすく流入できるという点で便利ですが,外国語を変化させてしまうという点で外国語学習には問題ありのシステムだと考えています.