査読誌に載せるのはたいへんなことなのです.

ちょっと調べものをしていて見つけたページがありました.

国際誌投稿「不採択」記録 http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/kr-results.html

このページをお書きになった方の名前は,日本で基礎系の心理学を学んだ人なら一度は聞いたことがあると思います.非常に分かりやすい概論書や翻訳書も出しておられます.リンク先をお読みになればわかると思いますが,このような著名な方でも国際的な査読誌に載せるのはなかなか大変なことです.最初に見たときは,このような情報を公開することにやや驚きました.しかし,これこそ国際誌に投稿するような研究者がまわりにいない大学院生やポスドクがまさに知るべきことです.ここから多くのことが学べるはずです.

論文が不採択になる原因はいろいろありますが,基本的には(1)論文内容が雑誌の方向性と一致していない,(2)内容が未熟で雑誌のレベルに達していない,という2つに分けられると思います.逆に言いますと,適切な雑誌を選び,求められるレベルに内容を仕上げれば,ほぼ載せることが出来ます(*1).これを見極める能力は研究者として独り立ちするのに最も重要なスキルだと思います.

研究者として独り立ちするには自分自身で研究を立ち上げ,それを論文としてまとめなければなりません.そのためには,研究プロジェクトを立ち上げるとき,あるいはデータが上がってきたとき,どのように仕上げれば,どの程度の雑誌に載せることが出来るかを判断できる力がなくてはなりません.

この判断は残念ながら先行研究を読み,論文を書いているだけでは身に付きません.論文を投稿し,査読者とのやりとりを何度も経験することによって身につくものだと思います.ですから,これまで投稿の経験がない人,少ない人が判断を誤り,連続して不採択を連絡を受け取ることは至極当然であるとわたしは考えます.

少なくとも心理学では,アメリカ,ヨーロッパ,そして,ここオーストラリアでも,大学院生のうちに自身で論文を執筆し,査読のある雑誌へ投稿することが強く推奨されます.分野にもよりますが在籍中に数本を査読誌にのせることが一般的です(筆頭著者以外の論文を含む).この経験により,大学院生は雑誌論文に求められる内容のレベル,そして査読者とのやりとりを学んでいきます.

日本でも徐々にこの傾向は強くなってきました.しかし,いろいろ話を聞くと投稿の失敗を繰り返し,めげている人も多いようです.また,日本の場合かならずしも論文投稿について丁寧な指導が受けられるわけではありません.

失敗を繰り返す人は,知り合いの専門家に読んでもらい意見をもらったり,批判をしてもらうこともおすすめします.これは一流の研究者でも普通に行っています.なぜなら,論文のレベルを著者自身で判断することは難しいからです.自我関与があるので自身への評価は不正確になりがちですし,自分で読むときは論理の飛躍や曖昧な記述を補填してしまいます.また,これまで使ったことのない方法やはじめて取り組むテーマですと,その方法やテーマにおける常識を知っているか,否かがとても重要になります.専門家の常識では抑えておくべきコントロール条件や統制すべき剰余変数などは,新規参入者にはなかなかわかりづらいものです(*2).論文を読んでいるだけでは重要度に気付かないこともあります.比較的詳しい知り合いに読んでもらいますとその辺の問題点をだいぶクリアにすることが出来ます.

人に負担を承知で頼むのは確かに気が引けますし,借りを作るのはイヤなものです.論文を読まれるのを恥ずかしいと思う人もいるかもしれません.しかし,他者からの意見や批判は,他者に頼む以外に聞くことは出来ません.人に頼むことで自分も謙虚になりますし,余所からの依頼にも応ずるようになります.わたし自身は,科学者間のコミュニケーションは基本的にはオープンで,利他的であるべきだと思っています.実際,科学コミュニティではこういう互助機構が互恵的に動いていると思います.

わたし自身,自分の専門の極狭い範囲では,かなり正確にどのくらいに仕上げればどこの雑誌に出せるか判断できます.しかし,少しでもずれるとかなり難しいのが現状です.判断が難しいときは,やはり専門家に意見を聞きます.たいてい有用な情報を得ることが出来ますし,将来,別の判断をするときこれが非常に参考になるとおもいます.



(*1) 査読者や編集者が誤解をして,内容としては良いものでも採択されないこともあります.また,理不尽なコメントで不採択になることもあります.わたし自身も好みとしか思えない理不尽なコメントで不採択をもらったこともあります.ただ,こういう場合は,ほぼ同ランクの雑誌で採択されることが多いです.

(*2)もちろん新しい分野の場合,研究計画の段階で専門家に相談しておくことも重要です.実験の無駄打ちを防ぐことになることができると思います.ただし,方法論以外のアドバイスはよく考えて受け入れるかどうか決めると良いと思います.