徹底的推敲:論文の書き方(6)

最近,論文の査読をする機会が大分増えました.雑誌論文の査読,いわゆるピアレビューもありますし,博士論文,修士論文などの学位審査もあります.読んでいて気になるのは,著者たちがどれくらい推敲したかということです.推敲したのかすらはなはだ疑問に思うものすらあります.もちろんすべてではありませんが,非常に雑なものが散見されます.特に修士論文などはうちうちのものだという意識があるからかもしれませんが,一度も読み返していない学部生の期末レポートのようなものまであります.誤字脱字,不正確な引用,逸脱した書式,感想を並べただけのような文章.こういうのを読むのは本当に大変です.雑誌論文でもたまにこのようなものが送られてきます.poorly writtenとだけ書いて送り返したい衝動に駆られますが,それを抑えて論文を読み,コメントを書くことになります.これには多大な労力がかかります.だって,何かいてあるかわかんないんだもん.

むかしある先生がおっしゃっていた言葉があります.

論文は俳句に似ている.何度も何度も推敲し,不要な部分をそぎ落とし,無駄のない一つの筋が見えたら,はじめて美しいものができる.

良いものを書く基本は何度も直すことです.徹底的に推敲することです.最近の査読経験から推敲を十分にしない人が多いように思います.もちろんとにかく一つのプロセスを終えて先に進みたい人もいるでしょう.書き上がったらすぐにでも他人に見てもらいたいという人もいるでしょう.しかし,良いものを仕上げるには,終わらせることを目的にしてはいけません.自分が納得のいくまで徹底的に自分の書いたものと向き合う必要があります.徹底的に推敲しなくてはなりません.

これには忍耐力が必要ですし,初めて論文を書く場合は先が見えないので,努力が続かないかもしれません.しかし,良い論文を書くために徹底的な推敲は絶対に必要なのです.ただし,最初の頃はどのくらいまで粘ればいいのかわかりません.ですから.自分ひとりで最初からやるのはなかなか難しい.そのために研究には指導者が必要なのだと思います.

初めて論文を書く人は,論文の基準をはっきり持った指導者を是非見つけてください.自分の指導教員にその能力がない場合,なんとしても別の誰かを捜す必要があります.そして徹底的推敲の技術を身につけてください.実際,意識さえ持てば,特に難しいことではないのです.

どんな簡単な文章でも,時間をおいて読み返すと必ず直した方がよい部分が出てきます.直された文章は直す前よりも必ず少しは良くなっているのです.論文は研究者としての仕事の集大成です.できるだけ良いものを,少しでも良いものを仕上げるべきです.わたしは推敲によって,論文は必ず良くなると信じています.

つーか,読む方の事情も考えてくださいよ.

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